人々が、陽気に笑って酒を交わし、
平和を、祝う



『Dive』

半透明の緑色をした酒瓶の中身を呷る。 「へぇーお前も酒飲むんだな」 魔法使いの少年が、ふわふわと上から現れた。 飛翔呪文を使いこなせる彼には珍しくもない光景。 「飲めないと言った覚えは無い」 「まぁそうだけどよ」 両足をそろえてジャンプするように着地して、 ポップは一つ小さく溜息をついた。
「お前もあっちの雰囲気に溶け込めなくてこんなところで1人飲んでんだろ?」



あっちの雰囲気。
ポップが指差した先は人々のわらい声と夜にも関わらず光で満ちていた。
対照的にこちらは静かで暗い。
植木の下に座って酒を飲む男が1人いるだけ。


「俺もさー今逃げ出してきたとこなんだ。あっちにいると酔っ払いたちに絡まれっからな」



だから、と続けてその場にどすんと座り込んだ。


「俺が付き合ってやるよ。1人で飲んでてもつまんねぇもんなんだろ?酒ってのは」



「1人で静かに飲みたい気分のときもある」



「ふーん。今のお前は後者か?」



是とも否とも答えずに
ヒュンケルは足元に転がっていた何本かの酒瓶のうちの1本をポップに渡した。



「なるほど」



ポップはにっと笑った。









「つーかお前1人でそんなに飲んだわけ?」



ヒュンケルの足元に転がっている酒瓶を指差してポップが言った。



「さっきまでクロコダインが一緒にいたんだ」


ポップが現れる数分前まではヒュンケルの相手はクロコダインがしていた。
と、いうよりは元々酒を持ってきたのはクロコダインで
どちらかといえばヒュンケルが付き合わされていたのだけれど。




「ふーん」



自分から持ちかけておきながら興味なさげなポップは
瓶を傾けて勢いよくがばがばと酒を流し込む。




「っぷはぁー」



威勢のよい呑みっぷりを見ながらヒュンケルはマイペースに酒瓶を口に運ぶ。




「今日は、さぁ。呑みたい気分ってやつなんだよ。俺もたぶん」



独り言のような言葉。
一瞬間を置いて。



「よっしゃ、ヒュンケル。どっちがたくさん飲めるか競おうぜ!」



既に顔が赤いポップには少々無謀な勝負ではあった。


















しばらくしてやってきたクロコダインが2人を見つけた。



ポップは見事に酔いつぶれて眠ってしまっていた。



「酒でヒュンケルに挑むとはなかなか勇気があるな。さすが勇気の使徒だ」




そう言ってがははと豪快に笑う。




「クロコダイン」



「おう?」



「俺は、明日発つ」




「・・・勇者を探す旅か?」



「あぁ」










ポップが眠ってしまう前にぽつりと言ったこと。


「あいつを早く見つけてやんねぇと・・・」







本当は彼らはわかっていた。

今日の宴に1番大切な主役が欠けていることを。

ポップは宴を開くことすら反対した。

その間にもダイを探すことができる、と。

そのポップを制したのはレオナ。

もう世界が安全になったと

大魔王に怯えていた人々に報告するのも

勇者の義務だ、と。

強い心。

彼らは誰もが勇者の帰りを待っていた。










「お前はそうするだろうと思っていたよ。ポップも目覚めたらすぐにでも発つだろうな」



と言っても明日は二日酔いで無理か、と、続けて笑う。


「お前たちが作り出した平和だ。本当はお前たちが1番にそれを味わうべきだろうに」



ふ、とヒュンケルは笑った。



「後は、頼む」



「任せておけ」





クロコダインは持ってきた酒樽をどん、と前に置いた。





「まぁ、今夜は呑もう」



「もうさっき十分なほど飲んだよ」



「今日くらいは、自分を褒めてやれ」



「あぁ。そうだな」









月が随分と傾いても



人々の笑い声は収まらなかった。



平和はたぶん、今この状況。











「乾杯」









酒と平和。