(気が狂いそうな程、俺は正気だ)





『HOLIDAY』

さっきからゴロゴロと雷が鳴っている。 次第に空が暗くなっていってさあさあと雨が降りだした。 しばらく雲行きをじっと眺めていたヒュンケルは立ち上がって窓を閉めた。 戻ってベッドに腰掛け、たまたま目に付いた本を手に取った。 降りつける雨が窓を叩く。 気にしなければなんでもないことも 一度気になってしまうとそれ以外に考えることが出来なくなってしまう。 ヒュンケルは再び立ち上がってぴしゃりとカーテンを閉めた。 こんな風に落ち着かないのは何も天候のせいじゃない。 ベッドに横になってふ、と目を閉じた。 時折こうしてどうしようもない感情に支配された。 くらい つらい かなしい さみしい そんな自分の愚かで途方のない感情は 苦笑いをして また心の奥に沈める。 だけれど それとは違う。 黒い悪夢のような。 罪の意識 赦されない過ち 悪を否定して光を名乗ろうとするほど 消し去れない過去は自分をどろどろと侵略した。 空気が重い 音が吸い込まれる この暗い部屋は あの頃の自分を思い出させた。 正義のために 勇者のために戦っていたころは わずかにでも光が見えた。 自分の手で罪を償っていると 確かな手ごたえがあった。 その手ごたえ、さえ 過去のもの 指先がかたかたと震え出した。 拳をつくって握り締めたがとまらず そのまま全身が震え出した。 (気が狂いそうな程、俺は正気だ) 雨がいっそう激しさを増した。 雷の地響きが地面を振動させた。 口の端を吊り上げて、わらう。 (わかってる) (俺は逃げない) (これが) (行き詰まりの人生だとしても)
タイトルは休日という意味でなく、 希望や願望が不在になってしまった、どん底、という意味で。