最悪の状況で 笑う彼ら 『紙一重』
北、東、南、西。 見渡す限り、モンスター、モンスター、モンスター。 その中心に立つのはポップとヒュンケル。 「こりゃちょっとやばいんじゃねぇ?」 ぐるりと辺りを見回して、ポップが言った。 「相手は数にものを言わせた雑魚だ。問題ない」 「おーおー勇ましい戦士さまですねぇ」 おどけて言ったその言葉の中に苦笑が含まれていた。 「向こう側の陸地も見えねぇってのに」 ポップはぐっと杖を握り直した。 2人が立っている場所は見渡しのいい広い平地のはずだった。が。 押し寄せるモンスターがあげる砂埃で数百メートル先の様子も見えない。 ただ、その先に今目で確認できる数より多くのモンスターがいることは確かだった。 「軽口がたたける余裕があるなら極大魔法の1つでも放ったらどうだ?」 「ならお前こそグランドクルス使えよ」 「そういうのは後先考えない一介の戦士がすることだ」 「じゃあ大魔道士さまの俺にゃ無理だなぁ」 理解していた。 自分の一手が相手の命をにぎること。 「逃げても構わんぞ」 ヒュンケルがそう言ったのと同時に、 じりじりと間合いを詰めたモンスターの群れが一斉に二人に襲い掛かる。 一線。 ヒュンケルの槍でモンスターの群れは一瞬で消し飛んだ。 「逃げられるもんならとっくに逃げ出してるっての!」 ポップの両腕に巨大な魔力が集結している。 「それが大魔道士の言うことか?」 「ああ、だからここにいるんだぜ。一介の戦士より先に逃げるわけにゃいかねぇからな」 いっそ自信に満ちていた。 根底の感情を噛み殺して自然にわいた笑み。 とん、と。お互いの背が触れる。 真っ直ぐ前を向けばそこから世界一週分の距離。 後ろを振り返れば熱さえ伝わるゼロの距離。 「死ぬなよ」 「誰に向かって言ってんだ?」 「先に言っておくが敵を全滅させるまで俺は振り向かんからな」 「後ろから敵が襲い掛かってきても?」 「そのまえにお前が何とかしろ」 「素直じゃねぇやつ」 くすくすと胸の奥で笑う。 「さ〜て ・ ・ ・ 行くぜ!!」 豪快な爆発とともに、長い戦いがはじまる。
正反対と紙一重の、紙一重の違い。