01.うらうら


がりり、とりんごをかんだ。 真っ赤なそれは甘酸っぱい。 空はきれいな青をしていた。 ときどき流れていく雲と、風にゆれている洗たく物は同じ、白。 晴れた日の午後の、気だるいような どこかへ行ってしまいたくなるような ふわふわとした感覚はどうしたらいいんだろう がりっ、とりんごをもう一口かじって、 マアムは部屋の中を見回した。 掃除が行き届いた部屋の中心には大きなソファが置かれていて、 そこには今、ヒュンケルが眠っている。 近づいて、そっと髪に触れてみた。 ソファのそばに座って、マアムはしばらくその寝顔を見ていた。 ヒュンケルが起きる気配はない。 なぜだか、とても、穏やかな気分になる。 今、どんな夢を見てるの。 もう、どこにも行かないで。 もう、傷つかなくていいのよ。 ねぇ、ヒュンケル。 夢の中にいる彼にテレパシーを送って、 その手を握ったまま、マアムは目を閉じた。 祈るように。 ゆらりとヒュンケルが目を覚ました。 ソファの端にもたれかかって眠っているマアムに気づいて、 そっと髪に触れる。 ふたりの、ふたりだけの、静かな時間。 マアムを起こさないようにヒュンケルは起き上がった。 テーブルのうえに置かれたかじりかけのりんごを見つけて、 小さくわらう。 がりり、とりんごをかんだ。 真っ赤なそれは甘酸っぱい。 空はきれいな青をしていた。 ときどき流れていく雲と、風にゆれている洗たく物は同じ、白。
同じ眼をしたふたりの、何気ない一瞬。