まるで気怠い日々だ、とヒュンケルは思う。
退屈で欠伸が出そうだと。




『You're more than the dress and the voice』

ゆらゆらと木々が風に揺られている。 ゆるやかに時間は流れている。 パプニカの昼はおだやかに通っていく。 ごくありふれた一瞬でしかない、今も。 パプニカ城内の廊下を歩いていたヒュンケルは、ぱたと立ち止まった。 風に乗せられて城下の子どもたちの笑い声が聞こえる。 真っ白いベランダの手すりにもたれかかり、城下の方を眺めてみた。 人々の声。 生きている音。 振り向いて隣人に話しかける仕草。 張り替えられた屋根の上で眠る人。 平凡な日常。 ヒュンケルは目を閉じた。 自分がまさかこんな風に穏やかな空間に留まれるなどとは考えたこともなかった。 胸の奥の闇はひそりと息を沈めている。 目を開ける。 まぶしい。 「ヒュンケル!」 呼ばれ振り向くと、マアムがそこにいた。 「何を見てるの?」 マアムはヒュンケルに寄り添うように ヒュンケルの隣で落ち着いた。 「ありふれた日常を、な」 「他人事みたい。ヒュンケルだってその中にいるのよ」 「・・・ああ、そうだな」 「いい天気ー」 少しだけ眠い。 今ある現実の全ても夢だったのではないかと時々戸惑う。 気怠い日々だ、とヒュンケルは思う。 まるで生ぬるいお湯の中にいるような。 隣にある安心感。 退屈で欠伸が出そうだと。 「本当にいい天気ね」 「眠たくなるわ・・」 「・・・平和、ね」 「あぁ」 陽光の中、 静かに溶けていく。 不慣れで不恰好な幸せ
最上級の幸せ。